葛の話シリーズ第三話

 

葛と健康(三)

 

葛酒 天極葛花ふぶき

 

 

平成八年十一月に明石の西海酒造では、井上天極堂製吉野本葛を使って、酒の仕込みを始めた。ここは社長の西海太兵衛さんと、休日にだけ家業を手伝うサラリーマンの二人の御子息とで切り廻している。小さな造り酒屋ながら、二百五十年の歴史があり、当社の大吟醸「空の鶴」は左党の間では根強いファンを掴んでいる。

 

和菓子の原料と言うことで、甘党のイメージをもつ葛が酒造りに結びついたので評判をとった。テレビでも取り上げられ、お茶の間の話題を呼んだ。葛酒造りで、井上天極堂は葛の秘めたる可能性を、また一つ発掘したことになる。この酒は、葛づくしを売り物にする天極堂奈良本店で、ご希望の方に試飲してもらっているそうだ。

 

筆者は名付け親の栄誉を授かったものだから、天極堂創業の地、奈良県南葛城郡葛村の春爛漫の風景を想定して、葛酒に「天極葛花ふぶき」の名を冠した。昔から酒は百薬の長と言われるが、楽しく戴く適量の葛酒こそ、まさしく健康と長寿の秘訣と言うものだ。

 

神戸大学名誉教授 津川兵衛