葛の話シリーズ第五話

 

葛と健康(五)

 

タイの不思議なクズ属植物 グワーオ・クルワ

 

 

わが国に分布するクズ(プエラリア・ロバータ)の根はよく肥大して、ボーリングのピンのように基部が少しくびれ、いわゆる紡錘形をしている。中国南部で広く栽培されている粉葛(プエラリア・トムソニィ)の根の肥大はさらに顕著で、特大のカンショのようだ。ところが、熱帯クズ(プエラリア・ファセオロイデス)の根はあまり肥大せず、ゴボウ根様である。一般に、クズ属植物の根は前記三者のいずれかに類別される。ところが、タイにはグワーオ・クルワ(プエラリア・ミリフィカ)と呼ばれ、奇妙な形の根をもつクズ属植物が分布する。この根は、マスクメロン五~六個を紐で繁いだような形をしている。マメ科植物ではアメリカホドイモも類似の根系をもつが、これは小型のカンショを繁いだような形で、グワーオ・クルワほど奇異な感じはしない。

 

平成十年四月二十五日(土)に、ABCテレビの「真相究明、噂のファイル」で、グワーオ・クルワが「食べるだけで大きな胸に・・・伝説の芋は実在した」というタイトルで紹介された。タイ北部、チェンマイ地方の人々はグワーオ・クルワの塊根を磨り潰し、ハチミツで丸薬状に固めて、若返りと美容のために食べるのだそうだ。わが国でも、グワーオ・クルワを使った様々な健康食品が発売されていると聞く。特に女性の胸を豊かにするということで脚光を浴びているらしい。これは、グワーオ・クルワの根に含まれるミロエステロールが女性ホルモン様作用を有することによると考えられ、タイでは研究が進んでいるようだ。

 

タイの女性は、グワーオ・クルワを食べるとバストが豊かになることをどうして知ったのだろうか。薬用植物に関する知識が極めて幼稚で、しかも迷信的であった時代には、心臓のような形の葉をもった植物は心臓の痛みを治すとか、三つの裂片を有する肝臓のような形の葉は肝臓の病気に効くのではないかと想像したと言われる。遥かな昔、タイの女性たちがあの真ん丸い塊根を目にしたとき、きっとグワーオ・クルワの魔力を直感的に悟ったに違いない。

 

神戸大学名誉教授 津川兵衛