葛の話シリーズ第八話

 

葛と健康(八)

 

 

 

クズの花に寄せて

 

あるとき、学生たちに自らが選んだ秋の七草を披露してもらった。古来、詩歌に詠まれてきた植物の名は姿を消し、代りにエノコログサ、セイタカアワダチソウ、コスモス、マンジュシャゲなどの名が挙がった。クズも選に洩れた植物の一つだ。これには、身近な自然が変容してしまったと言うことだけでなくて、われわれの生活様式や行動形態が変わってしまったことにも原因があるのだろう。

 

 

クズは葉隠れに花を着けるから、大きな花房に色鮮やかな花を咲かせるわりには人目につきにくい。これは、この草花の好ましい特徴の一つと思われるのだが、人気の出ない点でもある。今日では、人は密やかに咲く花を見つけ出す暇などないのかも知れない。車社会だ。スピードを出した車窓からでは、ちっぽけな花など見過ごしてしまうのだろう。

 

 

ところで、乾燥したクズの花を主薬とする漢方薬に葛花解醒湯と言うのがある。宿酔の薬だそうだ。最近の科学雑誌でも葛根の成分が肝臓によいという記事が出ていたりする。こんなことを足掛かりにして、クズの名誉回復を計り、秋の七草の現代版にも大手を振って仲間入りができるとよいのだが。

 

 

神戸大学名誉教授 津川兵衛