2024年は3回、葛苧作りを行いましたので、その成果報告です

葛のツルを刈り取ります。
今年気づいたのは、【狩場が大事】だと言うことです。
大井川葛布の親方には「葛のツルを選ぶのが大事」と聞いていたのですが、どんなツルかというと、①川の砂利の上をまっすぐに伸びていて、②根をおろしたり分岐していないツルで、③切った時に切り口に白い芯がないもので、④できれば黒っぽいツルの方が白い繊維がとれる、というものです。

去年はいろんな場所を探していい葛のツルを選ぼうと思いましたが、葛はいっぱいあってもいいツルはなかなかないんです。
そして今年見つけました。なんと天極堂の橿原工場の前の川に生えている葛はほぼほぼ条件を満たしているのです!!
当たり前ですが、川や田んぼなど水辺の葛は、水を吸って、太陽を浴びて、ぐーんと伸びるので、刈り取ったツルはみずみずしく成長も早いので芯が入ってなくて、しかも太い!
はさみを入れたら白い汁がじゅわっとにじんできます。
しかもここには発酵に必要なススキも生えていて、最高の狩場です。

葛のツルを両手を広げた長さくらいに刈り取ったら、先端部分とツルについている葉を切り落としてリース上に丸めておきます。
リースの大きさは鍋に入る大きさ。
刈り取ったらできるだけすぐに大鍋にたっぷり水を入れて茹でます。
ゆで時間は約2時間。
途中天地をひっくり返して軟らかくなるまで茹でます。

茹でてるときは、枝豆を茹でてるのと同じ匂いがします。
葛ってマメ科だったよね~ってしみじみ感じます。
茹で終わったら緑が黄色味がかります。
発酵のさせ方はいろいろあり、土に埋めたり、むしろを作ったりします。
でも、昨年「お鍋発酵」を教えてもらいました。とても簡単です。
茹でたお鍋のお湯を捨てたら、その中にススキを入れ、葛のツルを戻し、上からもススキをかけたらふたをして、ビニール袋で包んだら、そのまま常温で3~5日間放置。

ふわふわっと白いカビが生えるのがベストですが、写真のように失敗してしまって白カビが生えないこともありました。
でも、白カビが生えなくても発酵していれば洗えるというのも今年初めて体験しました。
はじめの2回はちゃんと白カビ(枯草菌)が生えてくれたんですが、最後の1回はカビが生えなくて…
でも、手でさわるとぬるっとするので、一か八かで洗ってみると、いつもと同じように繊維を取り出すことができました。
きっと、ベストなのは白カビなのだと思いますが、失敗してもある程度は許容範囲ということですね。

狩場と同じく大事になってくるのが洗い場です。
奈良もきれいな川は多いのですが、安全に作業できて、車を停めれたり、トイレがあったり、迷惑をかけない場所で…と考えていると本当に洗える場所って限られるなと思います。
今回は吉野川で洗いました。駐車場、トイレ、更衣室があり、バーベキューもできるので、本当にありがたいです。

洗いの作業は、まず「クソ皮落とし」といって、表面のぬるっとした部分をきれいにします。その後「筒抜き」で中の芯を取ったら、中にもぬるぬるが残っているのでそれをきれいに指で優しくこすりながら洗います。
洗う前の葛も、洗った後の葛も、川の流れにつけておくとそれだけでどんどんきれいになっていくので、川って本当に偉大です。

左が洗い終わった葛の繊維(葛苧)。
右は筒抜きで抜き取った芯の部分。
芯は本当は廃棄するところなんですが、芯の中もきれいに洗って干しておくと、草履やしめ縄や麦わら帽子のようなものを作ることができます。

洗い終わったツルは草の上で太陽(紫外線)にしばらく当てるとより白い繊維になります。
でも、すぐに帰らないとっていう場合はびしょびしょなので、八の字に巻いておくと、からまなくて持ち帰りやすいです。
この後まっすぐに伸ばしてしっかりと乾燥させました。
これで「葛苧」の出来上がり。
普通はこれを細く割いて、葛布結びをして、つぐり(糸)を作って、機織りをして布を作って、着物や帯などの作品になります。
でも、天極堂では機織りができないので、葛苧の状態で出来るものを考えています。去年と今年はタッセル作りのワークショップをしました。葛布独特のツヤを活かした何か、アイデアあれば教えてください。

さて、葛苧はできたのですが、タッセル作りでキーホルダーやイヤリングを作った時に、葛の色(黄色味がかった白色)だけではかわいくないし面白くない…と思い、今回は染織してみることにしました。
染めるときは葛苧の状態で。糸にしてしまったら細いし長いし絡まるしなので、絶対に葛苧の状態で染めましょう。
また、染液にそのままつけるのはやめましょう。
絡まったり切れたりしてしまうので、今回は排水溝ネットを利用しました。洗濯ネットでもいいのですが、量が少ないので排水溝ネットが思いのほかぴったりでした。

マリーゴールドは黄色になります。
しっかり色をつけたければ長い時間つけておきます。

コチニールは赤色になります。
わりと色が濃いので、淡いピンクにしたければさっと引き上げた方がいいのですが、今回は差し色に使えるかなという考えがあったのでしっかりつけてみました。

他にアイの生葉染めもしたので、青色もあって、全部で3色。
カラフルな葛苧ができました。

染めた葛苧は乾燥させます。
巻いたままだとぐちゃぐちゃになるので、葛を洗ったときと同じようにまっすぐ伸ばしておくのがポイントです。

今年は3回葛苧作りを行いました。
1回分で葛とススキの刈り取りが1時間、茹でるのに2時間、洗うのに3時間。
それでざっくり30gくらいの葛苧ができました。
移動や準備まで考えたら1日がかりで30gしか繊維がとれないという計算です。
(もちろん私の経験が足りない部分も多いですが…)
でも、昔は着物1枚作るのに3世代かかったと聞きました。お祖母さんが糸を作り、お母さんが反物に仕立てて、やっと孫の代で1枚着られる。
今はいかにおしゃれな服を着るかに重点が置かれて、流行があるから毎年服を買い替える人が多いし、安価な服もたくさんあるので、着るものに困る人はいないけれど、葛布を作ると「糸」のありがたみを感じるし、「自然布」についても考える機会になります。
別に自然布だけで生きて行こうなんて思わないけれど、昔に思いを馳せたり、工芸作家さんに思いを馳せたり、便利なものに感謝したりと、生活を振り返る機会になればいいなと思います。
あとは、やっぱり葛ってすごいよね!食べるだけじゃなく服まで作れるんだよ!!!っていう純粋な葛自慢もしたくなりますが(笑)
みんなはこれを見て何を思いましたか?

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