葛根→葛粉→葛湯の変化を体験していただけるスペシャルイベントを開催

天極堂は三光丸様とポニーの里ファーム様にご協力いただき、丸一日かけて葛に見て(実物もみるし、クスリ資料館見学、工場見学もある!)、触れて(掘って、つぶして、もんで、こして)、味わっていただく(ランチもおやつもみんなで作る)スペシャルイベントを開催しました。

まずは三光丸様敷地内の雑木林で、葛根掘り

まずは雑木林を見渡し、「どれが葛でしょう?」と、葛探しから。
葛は春に新芽を出し、夏に旺盛に伸び広がり、秋に花を咲かせますが、冬である今は地上部は全て枯れ落ち、目印はありません。
ですが、木化したツルは黒い幹になっています。
同じつる植物でも藤は花が咲くけれど澱粉は採れません。
幹の部分の色で「黒が根藤、白は花藤」と言って区別しています。

先ほどの写真の中央に生えているこの黒いつる植物が葛です。(手前の2本は別の木。)
こんな近くに木が生えているのは、葛根が掘りにくいのですが、「最悪この木は切ってしまってもいいよ」と三光丸社長様から許可をいただき、掘ってみることに。(切りませんでしたよ!!)

葛の太さは直径15センチくらいでしょうか。
すぐ横からも葛が生えていたのですが、掘ってみると根っこはつながっている一つの個体であることが分かりました。

まずは周辺を掘っていきます。
葛の根はどちらむきに伸びているのかわからないのでとりあえず周辺を掘ってみました。
1本葛の根を発見しましたが、紡錘形に膨らむこともなく、地表近くを横に横に伸びていたので、澱粉をためない根っこであると推測し、別の根を探します。

いろいろ掘ってみましたが、澱粉のありそうな根は真下から奥に向かって生えていることが判明。
ただ、そこは土ではなく岩がある場所で、スコップやクワでは掘ることができず、最終的に金槌で岩を砕きながら掘り進めることに。
もはや石職人のようです。

参加者は1時間掘って、その後は三光丸クスリ資料館を見学してもらいました。
その間、ポニーの里ファーム様と天極堂スタッフで(ほぼポニーさんが掘ってくださったのですが…)葛の根を掘り、戻ってきたお客様方は順番に記念撮影会♪
(ポニーさん、本当に、本当に、ありがとうございました。)
掘れた根っこは長さ30センチくらいのものが4本。
さて、澱粉は採れるのでしょうか…

三光丸クスリ資料館の見学

三光丸クスリ資料館は浅見館長がご案内くださいました。
「三光丸」奈良では知らない人はない和漢の健胃薬。そして社名も商品名と同じく「三光丸」。
三光丸の「三光」は、日(じつ)・月(げつ)・星(せい)の光を意味していて、名付け親は後醍醐天皇。
三光丸は食べ過ぎ飲み過ぎから、食欲不振まで胃腸の不調を緩やかに回復してくれるので、常備薬として重宝されています。
今回は特別に原料倉庫も見せていただきましたが、三光丸では生薬を植物のままの状態で仕入れ、自社で粉末に加工し、三光丸を作っているとのこと。
原料倉庫にはセンブリ、オウバク、ケイヒ、カンゾウの4種類が原料のまま、あるいは粉末やエキスになって保管されていました。
そしてクスリ資料館。
資料館では薬に関係の深い推古天皇、役小角、鑑真和上、後醍醐天皇にまつわるVTRを見た後、実際に三光丸に使われている生薬やその他の生薬を見せていただきました。
長い長いイッカクの角は必見です。

三光丸クスリ資料館には昔使われていた製薬に関する道具を実際に触ってみることができる体験コーナーもあります。
丸薬を作るために、押し出す道具と、出てきた丸薬を丸める板。
生薬をすりつぶす薬研や、粉末にする石臼。
丸薬を同じ数だけ袋に入れるために丸薬の大きさの穴が開いた板。
時代と共に変わってきた3種のデザインの薬包紙もあり、自分で薬を包むこともできます。
展示だけしてある資料館はどこにでもあるけど、実際に道具を触れるというのがいいですよね!
また、白澤の置物、古い看板、薬箱、背負子など薬にまつわる様々なものや、三光丸パッケージの変遷などを見ることができました。

天極堂本社に戻って、葛のもみ出し、葛入りパスタソース作り、吉野本葛工場見学、葛焼き作り、できたて葛湯

掘り出した4本の葛根をもって天極堂本社にもどりました。
葛の匠が粉砕機を稼働してくれたので、機械の中に葛の根を押し込みます。
*粉砕機がない場合はどうしたらいいかという質問がありました。
とにかくくだければいいので、餅つき用の臼と杵でつくとか、5重にしたビニール袋に入れて大き目の車のタイヤでひきつぶすとか、固い場所に根を置いてハンマーで叩き潰すなどの方法もあります。
ちなみに、のこぎりで切った葛根を、さらに包丁で細かく切ってミキサーにかけたことがありますが、ミキサーが壊れました。

今回は粉砕機を使ったのできれいにつぶすことができました。
繊維に絡まるようにしてところどころに見える白い粒が澱粉です。

繊維に絡まった澱粉をとるためには、たらいに水を入れて繊維をほぐすようにしっかりと、、何度も何度もごしごし洗います。
写真のように液がミルクティーのようになれば、澱粉がある証拠です。
もしも何度もみ洗いをしてもブラックコーヒーのような色であれば澱粉はほぼないと思われます。

大きい繊維をとり、残った液を布で漉しながら別の桶に移します。
今回は布の目が詰まり気味だったので、大きい繊維をとる→ざるで濾す→布で漉すと3段階にした方がよかったかもしれません。
うつし立てはミルクティーのような色をしていますが、数時間静置しているとでんぷんが沈殿して上澄み液はブラックコーヒーのような焦げ茶色になります。

本来は2日ほど置いてしっかりと沈殿させますが、今回は日帰りイベントだったので、3時間ほど静置しただけ。
でも、桶の底にはちゃんと澱粉がたまっていました。
また、本来はここから吉野晒の製法で10日から2週間かけて何度も撹拌→沈殿→水の入れ替えをくりかえしながら洗っていきます。そうすると、澱粉は茶色から白色になり、土臭さや苦みがなく、白いダイヤモンドとも呼ばれる「吉野本葛」が出来上がります。

今回はこの底の方の液を上澄みごと炊き上げて葛湯を作りました。お鍋で混ぜているとつやつや、とろとろ。ただ、まったく生成していないので、お砂糖が入っているので飲めなくはないですが土くさくて苦みもあって、決しておいしいものではありません。
でもそこはやはり葛ソムリエのイベントだけあって、慣れてくると飲めるかも…とおかわりした人も。
この茶色い部分に含まれるのはイソフラボンやリグニンなどポリフェノール。

大きな色付きのたるではわかりにくいので、葛湯を炊いたときに使った液をビーカーに入れておきました。冷蔵庫に入れて6日。しっかりと沈殿したので、上水を捨てます。まだ薄茶色のところがありますが、ここが残っていると結局土臭いので、表面を水をかけながら白いところが出てくるまできれいに洗うと…

ほら、白いダイヤモンド「吉野本葛」ができあがりました!
午前中、1時間は樹木や笹の根と格闘しながら土を掘り、次の1時間は岩を砕きながらやっとの思いで取り出した葛根。
それを粉砕機で砕き、井戸水でもみ出して、布ごしした澱粉乳を静置。沈殿したものを取り出したら、純白の葛澱粉を取り出すことができました!!!

写真はビーカーの(葛三昧ツアーで掘った葛根からとった)澱粉を乾燥させたものです。
晒していないのでビーカーの上下がアクで茶色くなっています。1300年前、昔々の人達はこの(未晒しの)状態で葛を食べていたと考えられます。
掘り立ての葛根から取り出したでんぷんで葛湯を作って飲んだ時よりはましなものの、アク(イソフラボンなどのポリフェノール)が残っているので苦みやえぐみがあると思います。(量が少ないのでもったいなくて飲んでいません…)
ただ同時に、アクが残っているからこと風邪の初期症状や更年期障害に効くなど葛根としての効果が期待できるかもしれません。

イベントでは皆さんに葛の澱粉乳の澱粉が多く含まれている底の方の部分をお持ち帰りいただきましたが、それ以外の液を沈殿させ、取り出したでんぷんをさらに1回晒したものがこの写真です。
しっかりと澱粉が含まれていたので、上下のアクの部分を多めに(贅沢に)切り取ったので、今の商品に近い純白の吉野本葛になりました。1回しか晒していないのでまだアクが残っていますが、ここまで白くなっていれば味に大きな影響はないと思います。(しつこいようですが、量が少ないのでもったいなくて飲んでいません…)

自分たちで掘って、つぶして、晒したでんぷんなので、間違いなく吉野本葛(葛澱粉)なのですが、それを確かめる意味でも、顕微鏡で粒子を観察してみました。すると、いつも見慣れた葛澱粉の粒子の大きさ・形であることが確認できました。
写真のように、葛澱粉は他の澱粉に比べて粒子が細かく(約10㎛)、大きさもほぼばらつきがありません。

比較のためにジャガイモ澱粉(片栗粉)の写真も撮りました。ジャガイモ澱粉は粒子が大きく、また、すごく大きい粒子のものから小さい粒子のものまで大きさにばらつきがあるのがわかります。
出前授業の時に子供たちにも話しますが、植物の澱粉はどれも同じような性質があり、色も白色で、とろみをつけることができて、粉末状の澱粉はパッと見ただけでは見分けることができません。でも、顕微鏡で拡大してみるとこれほど大きさや形が違うというのは驚きですよね。
また、大きさや形だけでなく、含まれる成分も違うのですから、目的に応じて使い分けできる人が増えたらいいなと思います。
(ジャガイモは体を冷やすから、冷え性の方は特に葛がおすすめです。)

葛根をもみ出してから葛湯を飲むまでの間の3時間に何をしていたかというと、まずはランチを作っていました。本日のメニューは葛入りのホワイトソースと葛入りのトマトソース。2種のソースをパスタにかけていただきました。葛は片栗粉と同じように「とろみ」をつけることができますが、何となく和食のイメージが強いです。でも、葛そのものは味がありませんから、洋風のお料理もお手のもの♪
煮込まなくても適度なとろみをつけられるので、パスタソースもちゃちゃっと仕上がります。
お昼ご飯の後は吉野本葛の工場見学。天極堂の葛畑や、吉野晒の現場、乾燥室、箱詰め室などをご案内しました。
そして本日のおやつは「葛焼き」です。いつも作る葛餅も透明感があっていいですが、外側がパリッと香ばしい葛焼きもほかほか温かい。本来葛焼きは夏の和菓子なんですが、ちょっとほっこりできるので私は冬におすすめしています。
こしあんを練り込んで葛もちたいたら、流し缶に入れてしっかりと冷やし固め、適度な大きさにカットしたら表面に葛粉をはたいて両面をこんがり焼けば出来上がり。ぜひ作ってみてください。
おやつを食べたらいよいよイベントのクライマックス、葛の澱粉がたまっているかを確認に行きました。
上澄み液を捨てて、底から白い澱粉が顔を出した時はもう本当にほっとしました。
葛湯も飲んで、お土産に葛液もお持ち帰りいただくことができました。

今回はたまたま良い葛根を掘ることができました。
岩の奥に伸びる葛根を見た時は、ぜったい葛根を掘るなんて無理だと思いましたし、根の量だけを考えたら澱粉が採れるかの自信もありませんでしたが、思った以上にたくさんの澱粉が入っていて、その様子を皆さんに体験していただくことができて、本当に良かったです。
来年がどうなるかはわかりませんが、また同じようなイベントができたらと考えております。
もしかしたら根っこが掘れないかもしれないし、掘れたとしても澱粉が入っている保証もありませんが、やってみたいと思う方はぜひご参加ください。
イベントのご案内は2024年11月、天極堂通信販売カタログポラリス冬号の紙面もしくは天極堂のHPで詳細を連絡します。

今回のイベントでは三光丸の米田社長、浅見館長、ポニーの里ファームの保科様、スタッフの皆様に本当にお世話になりました。皆様のご協力がなければ天極堂だけでは何一つできませんでした。
何から何まで初めてのイベントで参加者の皆様にもご不安、ご不便があったと思いますが、朝の9時から夕方5時までと長時間のイベントに終始笑顔でお付き合いいただきました。
この場を借りて改めて皆様に感謝申し上げます。
吉野本葛は日本の伝統食材ですが、守り、発信し、食べ繋いでいかなければ伝統は途切れてしまいます。
これからもみんなで一緒になって吉野本葛を次世代に伝えたいと思います。

葛についてもっと知りたいと思った方は…

◆「葛の本」を購入する
天極堂は創業150周年を記念して「葛の本」出版しました。
吉野本葛と共に日本の食のルーツを訪ね、旅をした様子や、73の多彩な葛レシピを掲載していて、読み応えがあります。

◆「葛ソムリエ」になる
マクロビ、薬膳、食生活アドバイザーなど食や美容、健康に関心のある方が多いですが、天極堂の商品を割引価格で買いたい方、葛という植物に興味のある方、料理教室をされている方、奈良が好きな方など様々な方が葛ソムリエになっています。イベントも優先的に案内しますし、葛ソムリエ限定のイベントもございます。