【空き地を覆う葛】葛はマメ科のつる草


お菓子や料理に材料として使う葛粉ですが、葛粉の原料は葛という大豆の仲間・マメ科のつる草です。
夏の間に光合成をし、秋から冬にかけて地上部が枯れ落ちる頃に養分がでんぷんとして根に蓄えられます。
根っこはいつでも土の中にありますが、葛粉を作るためには冬に掘りに行かなければなりません。
また、葛はどこにでも生える植物ですが、地上部を刈り取られては光合成ができませんので、

定期的に草刈りされる空き地や川の土手の葛ではでんぷんが蓄えられません。
それに、地面に生え広がる葛は節々から根を出してしまうので、養分が分散されてしまい根が肥大化しません。
このような理由から、葛粉を作るためには数年放置された(手入れされていない)雑木林で高い木々に巻き付いて上へ上へ伸び、

大きな樹幹を作っている葛を選ばなければなりません。
なので掘り子さんは冬になると山に入り、葛の根を掘り出すのです。

【葛の根堀り】冬の山の中で葛の根を掘る


良質な葛は日当たりの良い南側の急斜面が良くとれます。
冬は地上部が枯れ落ちているため、特徴のある葉っぱもなく残されているのはつるの部分だけです。
見慣れた人でないと、なかなか葛を探すこともできません。
ですが、「掘り子」と呼ばれる職人さんは藤や他の木とは違う、葛の黒くてごつごつしたつるを見つけ、手早く葛の根を掘り出します。
葛のつるは年を追うごとに太くなり、人の胴回りより太くなることもあります。
葛とフジはよく似ていますが、葛は「黒クズ」とも呼ばれ、つるが黒いのが葛。白いのは「花藤(はなふじ)」と呼ばれ、

根を掘ってもでんぷんはありません。

【葛の根】でんぷんの確認


掘り出した葛の根に鎌を入れると、でんぷん乳(汁)が出て、白いでんぷんが含まれていることがわかります。
夏の間に光合成で養分を作っても、台風などで地上部が切り離されてしまうと養分が根に送られず、

根がいくら大きくてもでんぷんが入っていないものもあります。
その為、掘り出した根に鎌で少し傷をつけて、でんぷんがあるものだけを持って帰ります。

【粉砕】でんぷんを取り出しやすい状態に砕く


掘り出した葛の根は粉砕機に入れてつぶします。

もし機械に入らない大きさの根がある場合は、機械に入る大きさになるように斧で割ります。
放置しておくとでんぷんの収量(歩留まり)が減るので、掘りたての根をつぶします。

【つぶした葛】繊維にからむ白い粉がでんぷん


粉砕機に入れると細かく砕かれ、繊維状にほぐれます。
繊維にからんでいる白い粒がでんぷんです。
あんなに大きな根っこでも、とれる葛粉はたった1割しかありません。

【もみ出し】繊維からでんぷんをもみ出す


粉砕した葛の根を布袋に入れ、水中で何度ももみ出して、丁寧にでんぷんを取り出します。
袋を絞り、繊維とでんぷん乳に分けます。
(袋に残っているのが繊維、バケツにたまるのがでんぷん乳)

【祖葛】一晩置くと底にでんぷんが沈む


でんぷん乳は始めミルクティーのように白く濁っていますが、一晩置くとでんぷんが沈殿し、上水はコーヒーのような焦げ茶色になります。
葛に含まれる有効成分のおかげか、掘り子さんは厳しい山での土仕事と極寒の中での水仕事を繰り返しているのにも関わらず、手がとても綺麗です。
そのことを伺うと、掘り子さんはこのしぼり汁をときどき入浴剤代わりにお風呂に入れていると教えてくれました。
血圧も下がるし、奥さんのお肌もつるつるになるとよく言っておられます。
これは、葛のしぼり汁に含まれるイソフラボンが皮膚から吸収されていると考えられます。
(余談)
イソフラボンが多く含まれているので、その色で焦げ茶色になります。
イソフラボンが多すぎてものすごく苦く、土臭いですが、治療の効果はありそうです。
韓国では「葛水」という葛の根のしぼり汁が健康飲料として売られています。

【吉野晒】撹拌・沈殿・水の入れ替えを繰り返す


昔は粗葛の状態で食べていたと考えられますが、実際はあくが多く、苦みやえぐみ、土臭さが残っているため江戸以降は

「吉野晒(よしのざらし)」という製法で精製しています。
これはお米を研ぐのと非常によく似ています。
まず、粗葛を大きな撹拌層に入れ、水を入れてよく混ぜます。
始めの内は茶色で、泡状のあくもたくさん浮いてくるので、網であくを掬い取る作業を丁寧に繰り返します。
一晩置きでんぷんを沈殿させ、上水をパイプで排水したら、再びきれいな水を入れてかき混ぜ、あくを取ります。
この撹拌・沈殿・水の入れ替えを繰り返すことで洗うのですが、沈殿に1日かかるため、1日1回しか洗えません。
キレイな状態になるには10日から2週間かかります。
手間と時間のかかる作業ですが、あくがなく、美味しい葛粉に仕上がります。

【舟に流す】


きれいに洗えたらパイプを使って「舟」と呼んでいる細長い水槽に流します。
大きな撹拌層では作業がしにくいための工夫の一つです。
昔は最初から終わりまで、すべて木桶を使って作業をしていました。
舟に流し、沈殿したら、上水を排水しブラシを使って表面の微細なあくを取り除きます。

【ブロック状に切り出し】


まだ水分が多いので、でんぷんの上に布を敷き、その上に乾いたでんぷんを置いてしばらく給水させます。
その後電動のこぎりと小手を使ってブロック状に切り出します。

【小さくカット】


表面の微細なあくを包丁で削り取ったら、ピアノ線を使って石鹸くらいの大きさにカットします。
乾燥しやすいように斜めに立てかけて並べたら、乾燥室で1~2週間かけて乾燥させます。

【乾燥】乾燥室で1~2週間で乾燥させます


昔は自然乾燥かつ風通しの良い部屋の中に置いておくだけだったので乾燥が終わるまで3ヶ月から半年もかかりましたが、

今の乾燥室は24時間風を循環させているので乾く日数がぐんと短くなりました。
今は熱風乾燥やドラム乾燥、フリーズドライなど様々な乾燥方法がありますが、できるだけ昔ながらの製法に近いままの方が良いという考えで、

時間もかかりますし場所を取りますが風を送り続けるという乾燥方法を採用しています。

【箱詰め】葛粉は日本のスーパーフード

完全に乾いたら(水分16%未満)、箱詰めして、やっと吉野本葛の出来上がりです。
もともと葛粉は乾物と呼ばれており、常温で長期間保存できます。
法律が変わり、賞味期限をつけなければならなくなった時、便宜的に箱詰め日から2年と設定しましたが、

本来保管条件さえよければ(カビが生えていなければ)何年でももつ商品です。
デリケートな商品ではないので、保管方法は湿気さえ避ければ大丈夫ですが、棚の奥にしまっておいて使い忘れられることが多いので、

かわいい缶や瓶に詰めて調味料と一緒に保管し、毎日のお料理に役立ててください。
お料理のとろみ付け、胡麻豆腐。葛餅や葛湯にお使いいただけます。
使い方がわからなくても「ミニレシピブック」がついています。(終わり)